米中貿易戦争の本質を再検証
2018年10月4日、ハドソン研究所での50分にわたる演説で す。シンクタンク での 演説ですが、その内容は、今後の米中関係を見るには、非常に重要 なものとなっ ています。 「トランプ大統領 は政権初期から中国や習近平 国家主席 との関係を 重視してきま した。昨年4月6日、トランプ大統領 は習近平 国家主席 をマーアー ラゴ(フロリダ 州パームビーチにあるトランプ大統領 の別荘)に迎えました。昨年 11月8日には、 トランプ大統領 が北京を訪れ、中国の指導者が温かく迎えてくださいました。」
「過去2年間にわたり、我々の大統領は中国の国家主席 と強固な個 人的関係を築 き、両国は共通の関心事項、最も重要な朝鮮半島 の非核化について 緊密に協力し てきました。」 この前置きの流れから、ペンス副大統領は、中国政府が、政治、経 済、軍事的手 段とプロパガンダ を用いて、米国に対する影響力を高め、米国国内 での利益を得 るために政府全体にアプローチをかけていると表現しています。 米国内政策や政治活動に干渉していると指摘してます。 ☆中国は自由化すると思っていた ------------------------------ ------------------------------ ------------------------------------------ ------------------------------ ------------ 米国の外交政策 に関して、ペンス副大統領は、ソ連 の崩壊後、中国 の自由化が避 けられないものと想定していました。中国に米国経済への自由なア クセスを与え ることに合意し、世界貿易機関 に加盟させたとしています。 つまり、いずれは中国は自由化するものと思っていたのです。 ペンス副大統領は「その希望は達成されませんでした。」と述べて います。 過去17年間中国のGDP は9倍に成長し、世界で2番目に大きな 経済となりましたが、 この成功の大部分は、アメリ カの中国への投資によってもたらされ たと主張して います。 中国共産党 は、関税、割当、通貨操作、強制的な技術移転、知的財産の窃盗、外 国人投資家にまるでキャンディーのように手渡される産業界の補助 金など自由で 公正な貿易とは相容れない政策を大量に使ってきたと表現していま す。 中国の行為が米貿易赤字 の一因となっており、昨年の対中貿易赤字 は3,750億ド ルで、世界との貿易赤字 の半分近くを占めています。 ☆メイド・イン・チャイナ(Made in China)2025を意識 ------------------------------ ------------------------------ ------------------------------------------ ------------------------------ ------------ ペンス副大統領演説には、「メイド・イン・チャイナ(Made in China)2025 」 というキーワードが出てきます。 中国共産党 は、ロボット工学、バイオテクノロ ジー 、人工知能 など世界の最先端 産業の90%を支配することを目指していて、中国政府は、21世 紀の経済の圧倒的 なシェアを占めるために、官僚や企業に対し、米国の経済的リーダ ーシップの基 礎である知的財産を、あらゆる必要な手段を用いて取得するよう指 示してきたと 述べています。 中国政府は現在、多くの米国企業に対し、中国で事業を行うための 対価として、 企業秘密を提出することを要求しています。また、米国企業の創造 物の所有権を 得るために、米国企業の買収を調整し、出資しています。 ペンス副大統領は、中国の安全保障機関が、最先端の軍事計画を含 む米国の技術 の大規模な窃盗の黒幕だとしています。そして、中国共産党 は盗ん だ技術を使っ て、大規模に民間技術を軍事技術に転用しているとしています。 ☆中国軍事勢力拡大と米国防衛産業事情 ------------------------------ ------------------------------ ------------------------------------------ ------------------------------ ------------ 中国は米国の陸、海、空、宇宙における軍事的優位を脅かす能力を 第一目標とし ています。 中国は、米国を西太平洋から追い出し、米国が同盟国の援助を受け ることをまさ しく阻止しようとしているというのが、ペンス副大統領の主張する ところです。 南シナ海 での中国の行動も、牽制しています。ここでペンス副大統領演説から少しはなれて、米国防衛省 が公表し た「米国の製 造業、国防産業基盤、サプライチェーン の弾力性の評価と強化」報 告について触 れてみます。 この報告書では、米国の国防産業が280品目以上の製品のサプラ イチェーンを外 国に深刻に依存しており、特に中国のレアアース と部品への需要が 高いため、米 国の国防安全に必要な材料への影響において「北京は重大なリスク だ」と断定し ています。 重要な米国産業の一角である軍需産業 の部品供給は、中国企業 から 行われている と、ある専門家は指摘してます。つまり、米国軍需産業 の下請けが 、米国企業で はなく中国企業 であることが、米安全保障の危ういところだとして います。 1980年代中頃、米議会対外依存合同監督委員会は調査の結果、 空対空ミサイル 「スパローIII」の部品16種が外国製であると報告しています 。冷戦時に米国が ソ連 を偵察した戦略偵察機 SR-71 のチタン合金製材料にいたっては、ソ連 産のチ タン鉱石に依存していたとのことです。 技術面でも、米国製よりもロシア製や中国製の武器が優れていると いう指摘も あり、それだけ米国内技術者が育っていないのだそうです。 いずれは米国軍は、中国や他国軍に負ける日がくるのではとの指摘 もあります。 「アメリ カファースト」と声高に叫ぶトランプ大統領 の本音は、米 国内への製造 業回帰です。米国に製造業を呼び戻したいというのです。 トランプ政権下では、中国の戦略的利益推進を見過ごすことはなく 、新たな国力 で米国の利益を守るとしています。 ロナルド・レーガン 以来最大の国防費の増額に署名し、716億ドルを投じて米軍 兵力を全ての領域で拡大するとしています。核兵器 の近代化も進め ます。 米国宇宙群構想にも演説では触れていますし、サイバー世界におけ る能力向上に も言及しています。 ☆「借金漬け外交」批判 ------------------------------ ------------------------------ ------------------------------------------ ------------------------------ ------------ さらにペンス副大統領は、中国の「借金漬け外交」を批判していま す。 中国は、アジアからアフリカ、ヨーロッパ、さらにはラテンアメリ カ政府へのイ ンフラローンに何十億ドルもの資金を提供していますが、これらの 融資条件は良 くても不透明であり、常にその利益は中国に圧倒的に流れていると の指摘です。 「スリランカ に聞いてみてください。同国は、商業的価値があるか どうか疑問の 余地のある港を中国の国営企業 が建設するために巨額の負債を負い ました。2年 前、その国はもはや支払いの余裕がなく、中国政府はスリランカ に 新しい港を中 国の手に直接引き渡すよう圧力をかけました。それはまもなく、中 国の成長する 遠洋海軍の将来的な軍事基地になるかもしれません。」と述べてい ます。 ブラジルの次期大統領に決まった、元陸軍大尉で極右のジャイル・ ボルソナロ氏 は「中国はブラジルでモノを買っているのではない。ブラジルその ものを買いと ろうとしているのだ」と主張しています。 それは、中国がブラジルの油田や鉱山、港湾、大型ダムや送電線網 を買いあさっ ていることに言及したもので、2000年以降、中国によるブラジ ルへの直接投資は 500億ドル(約5兆6600億円)近くに上ります。 返済不能 な貸し付けをしながら天然資源を採り尽くそうとする中国 は「新たな帝 国主義勢力」という批判が出てきています。 中国の西半球進出の足がかりとなったのが、ベネズエラ への貸付け です。
ベネズエラ に620億ドル(約7兆200億円)を超える資金を貸し付けていますが、 石油採掘量の低迷で債務返済が難しくなっていて、国民を苦しめて いると言われ ています。 ペンス副大統領はこのことにも演説で触れて「中国の戦略目標に対 応することを 約束する政党や候補者を直接的に支援することによって、一部の国 の政治に影響 を与えようとしている」と述べています。 借金漬けにして言いなりにさせる、なんか手口が恐ろしいですね。 中国共産党 は昨年から、中南米 3カ国に対し、台湾との関係を断ち切り、中国を 承認するよう説得していることを、ペンス副大統領は取り上げてい ます。 この中国の行動に対して、米国は関税強化という措置で、中国に経 済戦争を仕 掛けているのでしょうかね。 「トランプ大統領 の指示により、我々は中国製品への2500億ド ルの関税も実施し ていますが、最も高い関税は、特に中国政府がキャプチャーし、コ ントロール し ようとしている先進産業を対象としています。また、大統領も明ら かにしている ように、公正かつ互恵的な合意がなされない限り、我々はさらに多 くの関税を課 し、その数を実質的に2倍以上増やす可能性があります。」と述べ 、この発言で、 会場からは拍手が起こっていたようです。 ☆米国民主主義への介入 ------------------------------ ------------------------------ ------------------------------------------ ------------------------------ ------------ そしてこの後 「本日は、中国の国内での行動について、我々が知っていることを お伝えしたい と思います。そのうちのいくつかは諜報活動の評価から得たもので 、一部は公開 されています。しかし、これらはすべて事実であります。先ほど話 したように、 中国は影響力を高め、利益を得るために政府全体へのアプローチを 採用していま す。米国の国内政策と米国の政治に干渉するために、より積極的か つ強制的な方 法でこの権力を活用しています。」 と話を続けていきます。 中国は米国の民主主義に干渉しているとしています。 中国共産党 は、米国企業、映画会社、大学、シンクタンク 、学者、ジャーナリス ト、地方、州、連邦当局者に見返りの報酬を与えたり、支配したり しているとの 指摘です。 今回の中間選挙 への介入があったと断言しています。トランプ政権 を倒して別の 政権に変えようとしていると中国側を非難しています。 「最悪なことに、中国はアメリ カの世論、2018年の選挙、そし て2020年の大統領 選挙につながる情勢に影響を与えようとする前例のない取り組みを 始めました。」 マイク・ペンス 副大統領は演説でこのように述べています。我が国の情報機関は、「中国は米国の州や地方政府、政府関係者を 標的にして、 連邦政府 と地方政府の間のあらゆるレベルの政策を利用しようとしている。中国 の政治的影響力を高めるために、貿易関税のような分裂させる問題 を利用してい る」と述べています。 中国政府は、米国人の対中政策認識を変えるために、秘密工作やフ ロントグルー プを動員し、プロパガンダ 放送を流しているというのです。 ペンス副大統領は 「中国政府高官もまた、中国での事業を維持したいという彼らの願 望を利用して、 我々の通商措置を非難するようビジネスリーダーに働きかけていま す。最近の例 では、米国の大企業が米国政府の政策に反対する発言をしなければ 、中国はその 企業の事業許可を認めないと脅しました。」 と演説で述べています。 これまでに中国が課した関税は、2018年の選挙において重要な 役割を果たす産業 と州を特に対象としていると指摘しています。トランプ大統領 やペ ンス副大統領 に投票した米国の郡をターゲットにしているのだそうです。 「中国は他の方法で研究機関への圧力をかけています。中国政府は 、大学、シン クタンク、学者に寛大な資金を提供しており、共産党 が危険だと感 じたり、不快 だと感じたりするような考えを避けることを理解しています。特に 、中国の専門 家たちは、彼らの研究結果が中国政府の主張と矛盾している場合、 ビザ発給が遅 れたり拒否されたりすることを知っています...」 ☆自由で開かれたインド太平洋 ------------------------------ ------------------------------ ------------------------------------------ ------------------------------ ------------ 「インドからサモア に至るまで、地域全体で価値観を共有する国々 との間に、新 たなより強固な絆を築いています。我々の関係は支配ではなく、パ ートナーシッ プの上に築かれた尊敬の精神から生まれています。」 この発言に、米国のアジア戦略がうかがえそうです。確かに中国と はぶつかりま すよね。 パプアニューギニア の首都ポートモレスビー で開かれていたアジア太平洋経済協 力会議(APEC)の首脳会議で、1993年の第1回首脳会議以 来初めてとなる 「共同首脳宣言の採択断念」という事態となりました。 米国と中国が、世界貿易機関 (WTO )改革や一国主義を巡る文言 で対立したこ とが背景にあるとされています。 米国の安全保障の問題、インド太平洋における覇権争い、更には将 来のIT覇権を めぐる展開を考えると、米中関係は複雑と言えそうで、それでも世 界No1、2の経 済大国同士ですから、今後の米中首脳会談で、どのような答えが見 出せるのか、 世界中が注目するところとなりそうです...