オピオイド 危機 ~ 前編 ~
いま米国で「危機的状態」と言われているのが、麻薬系鎮痛剤の過 剰摂取問題で、 この麻薬系鎮痛剤が「オピオイド 」と呼ばれるものです。 オピオイド は慢性疼痛の治療に使われる医療用麻薬と呼ばれる鎮痛薬で、よく耳 にするものとして「モルヒネ 」があります。
医療用麻薬とは言え「麻薬」なので当然中毒性があり、この薬物過 剰摂取による 死亡者が米国では急増し、オピオイド 依存が社会的大問題となって いるのです。 「麻薬=オピオイド 」というわけではありません。 麻薬の「狭義の定義」では、モルヒネ やヘロインのようなケシから 生成されるオ ピオイドを指しますが、もう少し対象物を広げ、生成過程は異なる コカインや大 麻を含めて「麻薬」と呼ぶことがあり、日本ではLSD などの幻覚 剤も「麻薬」に 含めて「麻薬」と呼んでいます。 米国では、カリフォルニアやコロラド といった州では、マリファナ 使用が合法化 されていますね。 ちなみにマリファナ とは「大麻 」のことです。 今米国で大問題になっているのは、医療用の麻薬系鎮痛剤の過剰摂 取です。 米国はオピオイド 鎮痛剤依存が蔓延している... というのが正確な表現でしょう。 2018年1月末に行った一般教書演説でトランプ大統領 は、薬物 対策に断固たる姿 勢で取り組むことを明言していましたが、大統領はこれより前の2 017年10月にも、 公衆衛生に関する非常事態宣言を出してオピオイド 問題に対処する 必要性に言及 していました。 そもそもオピオイド 中毒者の問題が世間の注目を集めだしたのは、 2017年7月、 イエレンFRB 前議長が上院の公聴会 で、オピオイド 中毒問題が米 労働市場 に与える影響について言及したことによります。 演説では、金融危機 以降、労働市場 の回復は持続しているものの、 働き盛りでプ ライムエイジと呼ばれる25歳から54歳の男性の労働参加率(2 5~54歳人口に対す る、就業者数と失業者数を合計した労働力人口 の比率)が依然とし て金融危機 前 の水準に回復していない要因の一つとして、この「オピオイド 問題 」を取上げて いました。 職探しを諦めて労働市場 から退出したプライムエイジ男性の半分程 度が毎日鎮痛 剤を服用しているとしたほか、人口当たりのオピオイド 処方が多い 地域ほど、労 働参加率の低下が著しいとの試算結果を、プリンストン大学 のクル ーガー教授は、 2017年9月に論文で発表しています。 景気回復と労働市場 がリンクしない裏に、オピオイド 系鎮痛剤中毒 という、米国 社会が抱える「闇」が潜んでいたのですね。 いやぁ~驚きです。 米国がオピオイド に毒されている現状は、日本ではほとんど報道さ れていません。 また「医療用鎮痛剤」というキーワードも非常に気になります.. . ☆米国オピオイド 問題の現状 ------------------------------ ------------------------------ ------------------------------------------ ------------------------------ ------------ 米国における薬物乱用による死亡者数は、なんと銃による自殺者数 と交通事故に よる死亡者数の合計を上回る水準となっています。 銃社会 による犠牲が、日常的に大々的に報じられているイメージがあるだけに、 それよりも薬物による死亡者が多いことには驚かされます。 米保健当局は2018年末、オピオイド 系の合成鎮痛剤フェンタニ ルの過剰摂取によ る国内の死者数が、直近の統計となる2016年に1万8000人 を超え、ヘロインの死 者数を上回ったと発表しました。 米疾病対策センター (CDC)の下部組織、米国立衛生統計センタ ー(NCHS)は、 完全なデータが確認できる直近年に当たる2016年に、「薬物の 過剰摂取による死 亡件数の29%でフェンタニル の関与が言及されていた」と述べて います。 フェンタニル は強力な合成鎮痛剤で、脳に働きかけて鎮痛効果をもたらす点でモ ルヒネやヘロインと似ていますが、効果は50~100倍とされ過 剰摂取につながり やすく、あのロック歌手のプリンスさんやトム・ペティ さんも、フ ェンタニルの 過剰摂取で死亡しています。 また、米国では自殺の手段として、オピオイド 系鎮痛剤の大量摂取 が使われてい ます。 日米などの先進国における自殺者増加の背景にある社会的問題の多 くは「貧困」 で、経済的苦境を生み出す要因を解決しなければ、自殺者は減らな いという状況 であることは言うまでもありません。 格差社会 の成れの果て... それも十分に考えられますが、医療用鎮痛剤乱用というキーワード の背景には、 米国社会構造があるようにも思えます。 製薬業界と政治との関係は、日本ではあまり知られていませんが、 軍需産業 と政府との関係に等しく、自動車業界の政治への関与、ウォール街 の政 府への影響と 匹敵するぐらい強いものがあります。 依存症の母親の胎内で薬物を摂取してしまう「生まれながらの依存 症」の子供も 急増しているという問題もあります。 このようなオピオイド 依存状態で生まれてくる新生児の数は、20 00年から2014年 で5倍に増加しているというデータもあります。 薬を買うためウソをつき、全ての物を売り、盗みもした... 罪悪感は薬を使うと忘れ、薬が切れると罪悪感が... まるで薬物依存患者の訴えと同じです。 ドラッグ(薬物:drug)なんて表現もありますよね。 一時期マスコミでも話題になった「脱法ドラッグ 」「脱法ハーブ」 なんていう言 葉もありますね。 薬物乱用による自殺 その薬物が医療用鎮痛剤 何か奥が深そうな、米国社会の「闇」のようなものを感じてしまい ますね。 ☆数字で見る米国オピオイド 問題 ------------------------------ ------------------------------ ------------------------------------------ ------------------------------ ------------ 世界で薬物の直接的な影響による死者は、2015年で約17万人 と言われています。 そのうち最多の死者を出しているのが米国だそうです。 米国では1999~2016年の間に、薬物過剰摂取による死亡者 数が約3倍にも膨れ上 がっています。 CNNでは、薬物を過剰摂取して早死にする率について、米国が他 の12カ国・地域 の2倍以上となっているとの調査結果を伝えています。 内科系の医学誌に発表された調査によるもので、米国は2015年 、薬物の過剰摂取 を原因とする死亡率が最も高く、男性は10万人あたり35人が、 女性は同20人が、 薬物の過剰摂取によって死亡しているそうです。 2016年米国では、推計で6万3632人が薬物の過剰摂取によ って死亡しています。 薬物過剰摂取死亡者では、鎮痛薬のオピオイド で全体の半分以上を 占めており、 調査機関は、オピオイド (麻薬系鎮痛剤)などの広がりの深刻化を 指摘していて、 専門家は、薬物の過剰摂取による死亡が米国で高水準にある原因の ひとつは医療 用鎮痛剤「オピオイド 」の存在だと断言しています。 2018年の数字を上げれば1日あたり115人以上がオピオイド の過剰摂取で命を落と しているそうです。 オピオイド 過剰摂取の疑いで病院の緊急救命室で処置を受ける患者は1日約300人 に上るというデータもあります。 オピオイド に限れば、アメリカ疾病予防管理センター (Centers for Disease Control and Prevention)によれば、オピオイド の過剰摂取による死 亡者は、 2004年に9,091人でしたが、2010年後の2014年に はその3倍以上の228,647人にな り、さらに2015年は33,091人、2016年は42,00 0人以上と増加してきています。 ☆オピオイド 系鎮痛剤とは... ------------------------------ ------------------------------ ------------------------------------------ ------------------------------ ------------ オピオイド 鎮痛薬とは、神経系の司令塔の部分である脳や脊髄に作用して痛みを 抑える薬の総称で、医療用麻薬とも呼ばれ、日本でも法律で医療用 に使用が許可 されている「麻薬」です。 モルヒネ という薬の名前はよく聞きますね。がんの痛みに対して使われています。 オピオイド 系鎮痛剤はもともと、植物のケシ(Opium poppy)からつくられました。ケシの実から採集されるアヘン(Opium)が、古来から麻 薬として使われて いました。 オピオイド は Opioid と書きます。学術的専門的なことはともかく、なんとなく理解できましたでしょうかね。 紀元前3400年ころの古代シュメール人 たちもケシを栽培してお り、「喜びをもた らす植物」と呼ばれていたそうです。 このネーミングが危なそうですね。 医療用麻薬と言えども中毒性はあり、自分で制御できずに薬を使用 してしまい、 痛みがないにもかかわらず薬を使わずにいられないようになること もあることは、 既に指摘しているところです。 20世紀はじめに米国で問題になった「アヘン中毒」は、政府をそ の対策に動かす ほどで、1914年のアヘン規正法から、非合法利用との戦いが始 まります。 しかしその一方で、製薬会社はアヘンからさまざまな鎮痛剤(オピ オイド系鎮痛 剤)を開発していきました。 1804年にモルヒネ 、1832年 にコデイン が作成され、187 4年には、モルヒネ からヘ ロインもつくられました。 ヘロインは、最初は鎮咳薬として販売されていましたが、注射器投 与により強力 な麻薬作用が生じることが判明し、厳しく規制されることになった ようです。 その後、アヘンに含まれるアルカロイド からオキシコドン が合成さ れたほか、ヴ ァイコディン(コデイン から合成されたヒドロコドンとアセトアミ ノフェンを配 合したもの)やパーコセット(オキシコドン ・アセトアミノフェン ・パラセタモ ールを複合的に配合したもの)などの各種オピオイド 系鎮痛剤がつ くられていっ たそうです。 カタカナが続きましたが、しっかりとついてきてください... オピオイド 系鎮痛剤には、経口投与や皮膚パッチのものがあり、2~3日間連続使 用すると、耐性が生じるようです。 最初は少量で得られた効果を感じるのに、より多くの薬が必要にな ります。一部 の作用に対して他より強い耐性が現れる人もいます。耐性が生じて も、薬物使用 の徴候をほとんど示さず、薬物が手に入る限り、正常な状態でいつ もの日常生活 を送る人もいるそうです。 ロサンゼルス・タイムズ紙による告発記事に、医療用麻薬の最大手 である米薬品 メーカー、パーデュー・ファーマ社が販売する鎮痛薬「オキシコン チン」が、強 烈な痛みに苦しむ患者を救う“夢のクスリ”として「米国史 上、最 も乱用されて いる薬品」のひとつとなったことに対して、その背景には、全米史 上最多の乱用 者を生んだメーカーの「嘘」があるとしています。 1回の服用で鎮痛効果が12時間続く... 「オキシコチン」があれば、夜中に起きずにすむ... パーデュー・ファーマ社は、朝と夜寝る前に1錠ずつ飲めば、昼も 夜も一日中鎮 痛作用が持続すると、現場の医者に宣伝していました。 宣伝効果は抜群で、オキシコンチン は米国で売上1位の鎮痛剤とな り、パーデュ ー社に310億ドル(約3兆5000億円)の収入をもたらしまし た。 ところが、薬の効果は12時間よりずっと早く薄れてしまう場合が 多いことが判明 しました。それはなにを意味するのかと言えば、効果が持続しない とつらい離脱 症状が起き、オキシコンチン をより強く求めてしまう現象が起こる ということに なります。 人為的に中毒者を増産したことになります。 その数なんと20年間で700万人にもなるそうです。 ロサンゼルス・タイムズ紙は
・第1に、パーデュー社が作用時間の問題を何十年も前から認識し ていたこと。 オキシコンチン が市場に投入される以前から、多くの患者には効果 が12時間も 持続しないことが、臨床試験 によって示されていた。 ・第2に、オキシコンチン には12時間の鎮痛効果があるとパーデ ュー社が主張し つづける理由のひとつは、売上を維持するためだということ。とて も価格の高 いオキシコンチン が、より安価な鎮痛剤に優る点は、作用時間の長 さ以外にほ とんどない。 ・第3に、全米の処方データを分析したところ、オキシコンチン を 長期的に服用 している人の半数以上が、保健機関が危険と考える量のオキシコン チンを摂取 しているということ。
を、何千ページにもおよぶパーデュー社の機密文書などの調査によ り明らかにし ています。 現在全米各地で、パーデュー・ファーマ社は訴訟が起こされている ようで、同社 は、巨額の賠償金が発生する恐れがあるとして、連邦破産法 第11 章の適用申請を 検討していると報じています。 米メディアでは、パーデュー・ファーマ社と同社を経営するサック ラー・ファミ リーから50年間寄付を受けていたメトロポリタン美術館 が、今後 の寄付の受付を 見合わせることを発表したとあります。 また、ニューヨークタイムズ 紙によると、アメリ カ自然史博物館も 同様に、サッ クラー一族からの寄付の見合わせることにしたということのようで す。 マーケットにも影響があるかもしれませんし、投資家行動にも影響 が見られるか もしれませんね。 トランプ米大統領 は2019年4月24日、医療用鎮痛剤「オピオ イド」の乱用問題へ の対処として、製薬大手の責任を追及すると表明しました。 米国で社会問題となっているオピオイド 中毒のまん延に、米製薬大 手ジョンソン ・エンド・ジョンソンの責任を問う訴訟の審理がオクラホマ州 で5 月28日に始ま りました。 米自治 体が鎮痛剤メーカー各社を相手取った類似の訴訟は1000 件以上起こされて おり、オクラホマ州 はその中で最初の審理として注目されています 。 オクラホマ州 の検察は当初、ジョンソン・エンド・ジョンソン とともに、前述の オピオイド 系鎮痛薬メーカーの米パーデュー・ファーマ、さらに、イスラエル のテバ・ファーマシューティカルズ・インダストリーズの計3社を訴 えました。 オクラホマ州 は、パーデュー・ファーマ社とは3月に2億7000万ドル(約300億円) の和解金支払いで合意し、5月26日にはテバも8500万ドルの 支払いで和解しました。 #米国 #薬 #薬害 #オピオイド