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広島「黒い雨訴訟」国側は上告見送り、支持率低迷が原告側を後押し...

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黒い雨訴訟 上告見送り

広島への原爆投下後に降った放射性物質を含む「黒い雨」を巡り原告84人(うち14人は死亡)全員を被爆者と認めた広島高裁判決について、菅義偉首相は7月26日、上告を断念すると表明した...

 「黒い雨訴訟」と言われるもので、菅政権がコロナ対策で支持率が低迷していることを受けて、支持率回復を狙っての、起死回生の一手を打った感じです。

国民の支持狙いという、実に情けないものではありますが、原告としてはどんな形であれ、原告側の言い分を国が認めさえしてくればよいわけで、支持率低迷が、原告の思いを叶えた結果となりました。

このことから言えることは、一党安定独裁だと物事は動かないので、政局は常に緊張状態にあるのが良いという典型ですね。

 

黒い雨訴訟とは...

「黒い雨」とは、原子爆弾投下後に降る雨のことで、まさに表現の通り、雨が“黒い”のです。広島市に原爆が投下された後に降った雨で、その雨は広範囲に降ったようです。

フランスやソ連(当時)の核実験後にも、「黒い雨」は降ったと記録されています。

当然、「黒い雨」には放射性物質が混じっていて、人体には悪影響を及ぼします。雨に直接打たれれば、被爆したのと同じ症状が表れます。

長崎でも、「黒い雨」の降雨記録は残っています。

被爆者に対しては、その治療などの費用を国が負担する措置が取られ、原爆の後遺症で生活が困窮している人たちに手を差し伸べるものとして「被爆者援護法」が制定されています。

被爆者に対して、国の費用で医療が受けられる「原子爆弾被爆者の医療等に関する法律」と、被爆者への健康管理手当を支給するとした「原子爆弾被爆者に対する特別措置に関する法律」が、平成6年(1994年)12月に一本化されたもが「原子爆弾被害者に対する援護に関する法律(被爆者援護法)」です。

被爆50周年にあたり平成7年(1995年)7月に施工され、被爆者に対する保険、医療、福祉にわたる総合的な援護を国の責任において行うものとしています。

「黒い雨訴訟」は、どの地域に「黒い雨」が降ったかの認定の違いで、被爆者援護法の対象となるかならないかが決められるとして、その認定の範囲、つまり「黒い雨」降雨地域の範囲指定について、国と争っているものです。

従来、広島において黒い雨の降った範囲は、当時の気象技師の調査などに基づき、爆心地の北西部に1時間以上降った「大雨地域」(南北19km、東西11km)と1時間未満の「小雨地域」(南北29km、東西15km)だとされ、国はそれに基づき「大雨地域」在住の被爆者にのみ、健康診断やがんなどの特定疾患発病時の被爆者健康手帳の交付を行ってきました。

「少雨地域」は、対象外としたのです。

この地域を限定するやり方だと、地域外の人で被爆症状が出た人は、「被爆者」という認定を受けることはできません。

 

その後の調査で、爆心地から8Km離れた「少雨地域」の土からも、セシウム137が検出されました。

広島市による再シミュレーションにより、「黒い雨」降雨地域拡大を期待しましたが、厚生労働省は「降雨域を確定するのは困難」との結論を出していました。

実際に「黒い雨」を浴びて被爆したにもかかわらず、認定区域から外れていたことで被爆者と認定されなかった84人の住民たちが原告となって、国や広島市を相手に訴訟を起こしました。

一審の広島地方裁判所は原告の言い分を支持し、広島高裁も7月14日に、黒い雨を浴びながら国の援護を受けられないのは違法だと訴えた住民84人(うち14人死亡)全員を被爆者と認定した一審・広島地裁判決を支持して、国や県・市側の控訴を棄却していました。

国の「線引き」の妥当性を否定したのです。

これを受けてこれまで国は、県と市に最高裁へ上告するよう促していました。県と市は受け入れず、協議が続いていたという状況でした。

 

上告見送り 受け入れ難い部分もある

菅義偉首相は26日、広島への原爆投下直後に降った「黒い雨」訴訟に関し、上告を断念すると表明しました。

私自身熟慮してきた。84人の原告については被爆者援護法に基づき、その理念に立ち返るなかで救済すべきだと考えた...

首相官邸で記者団にこう語りました。

首相は原告に「直ちに被爆者手帳を(原告に)交付したい」と説明し、原告以外に同じような事情を持つ人の救済も検討する意向を示しました。

一方で「国として受け入れがたい部分もある。談話という形で整理したい」とも話し、上川陽子法相と田村憲久厚生労働相に対応を指示しました。

近く首相談話を閣議決定します。

 

ただこれで「良かった」とするものではありません。実際の被爆認定方法や救済対象をどこまで広げるかを、それこそ着地点をきちんと確認する必要があります。

首相はその後、官邸で広島県湯崎英彦知事と広島市松井一実市長と面会し、政府の方針とともに県や市と連携していく考えを伝えました。

松井視聴は「首相の英断に心から感謝する」と答えたとのことです。

一審判決は、黒い雨に遭い、がんなどの疾病にかかれば被爆者にあたるとしましたが、控訴審判決は疾病にかかわらず、幅広く被爆者と認める判断を示しました。

広島市などが推定する降雨地域は援護対象区域の6倍にあたり、この範囲で浴びた人は今も約1万3000人いるとされています。さらに新たな申請者も予想され、国は援護行政の見直しを迫られることになります。

県と市は、手帳の交付事務を国から任されているため、裁判では被告として住民らに訴えられましたが、被爆自治体として国に援護対象区域の拡大を求めてきた経緯があり、実際に高裁判決後、上告の見送りを認めるよう国に求めていました。

しかし、厚生労働省法務省の担当者からは「上告が必要」などと伝えられていました。国側としては「上告やむなし」の姿勢だったようです。

国は有識者らによる検討会を設け、区域の拡大を視野に検証を進めています。

これで、原告が「いずれも黒い雨に遭ったと認められる」と結論付けて全員に被爆者健康手帳を交付するよう命じた高裁判決が、28日の上告期限を前に「政治決着」で確定する見通しとなりました。

被害者の方々の高齢化を思えば、裁判がこれで終わることは、本当に良かったというおもいです。内閣支持率が低迷していなかったら、上告するつもりだっただけに、世論が動かしたという側面もあり、安定政局の「負の部分」を見たようです。

菅首相

多くの方が高齢で、病気の方もいる。速やかに救済すべきだと考えた...

と説明したとのことです。

同じような立場の被害者の救済についても「検討していきたい」と述べていることから、今後84人の原告となった被爆者以外の人が、どれだけ救済されるかを見守っていきたいですね...